榎土敦之のコラム「心配事」

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心配事

全く持って、小心者なのである。

例えば。
日曜日なんかに246がものすごく空いてると、
「今日は車乗っちゃいけない日だっけ?」とか、
朝、学生服ばっかに出会って、妙におっさん顔の人なんか見つけると、
「やば。今日は国民一斉学生服の日だっけ?」
などと、とてもありえそうもない事を心配したりするのだ。

つまり、イレギュラーに弱いのである。

最近、通勤時に必ず正面に立つ人がいる。
僕は、乗り換えの都合もあり、一番前の車両の3つ目の右側ドアのすぐ脇で、
イスの横板にもたれかかって立つことにしている。
承知のとおり、ドアの脇は左右2ヶ所あるので、どちらかに僕、 そして、反対側に彼なのだ。

年齢からいって35歳くらいだろうか、こざっぱりした、ちょっとお洒落なお兄さんだ。
いつも経済新聞を忙しそうに、読んでいる。

おそらく彼も、僕と同じく「また、コイツだ」と思っているんだろう。
いつも1回だけ、目が合う。
ドアの左右で、進行方向に対して前向きか後ろ向きに立つことになるのだが、
恐らく右、前向きが好きなのだろう。
逆側だと、苦しそうに新聞を読む。

彼は、僕が乗る駅よりも前から乗っているようだが、まずは、二人ともバラバラの位置にいる。
乗るのは各駅停車で、二子玉川で出口に一番近いということもあり、
混雑していても半分くらいは降りてしまう。
その降りる人の波に乗りながら、互いにその場所を確保するのだ。

幸い、今まで狙いが重なったことはない。
きれいにどちらかに分かれるのだ。

そして、彼は、渋谷で降りていく。

今日も、二子玉川で一番前の車両の3つ目の右側ドアの右脇に立った。
お兄さんのお気に入りの場所なので、申し訳ないなぁと思いながら。
実は、僕は左脇が好きだ。
後ろ向きの方が、発信時に人の圧力がかからないからだ。

「悪いね、お兄さん…」と思いながら、見上げると・・・。

いない・・・。

いない・・・。

もしや、このおばちゃんに先を越されたのか?
どうした、お兄さん!
いつも僕達は、うまくやってじゃないか!

周りを見渡す。
きっと敗北に打ちひしがれた、しおれたお兄さんがいるにちがいない。
やはり、ここは、場所を譲ろうではないか。
いわば、戦友なのだ。
毎日、この場所を勝ち取ってきた、戦友なのだ。

いない・・・。
いない・・・、
いない・・、
いな、いない!!!!!!

どうした、風邪っぴきで休みか!
乗り遅れたか!
いや、俺が電車を間違えたか・・・、いや、合っている!

待てよ。
そういえば、今日は電車の中の雰囲気が違うぞ。
なんだか、レジャーな匂いがプンプンする。
スーツの人が妙に少ないじゃないか。
今日は、何曜日だ・・・、木曜だ。
祝日か・・・、違う。
では、なぜみんなホッとした顔をしているんだ!
なんで、渋谷で降りるんだ!
もしや・・・、

「国民一斉ホッとした顔で渋谷へGOの日か!」



・・・30分後には、普通に仕事をしている。