榎土敦之のコラム「腕時計」

腕時計.jpg
腕時計

こういう僕でも、わりと服にはうるさい。
最近鍛えすぎてお腹の筋肉が一つにまとまってからは、なかなか合う服がないのだが、以前は女性モノなんかも着ていた。
もちろん、センスがいいものであって、趣味が特殊なわけではない。
まぁ、とにかく“おしゃれ”にうるさい。

なかでも、気にしているのが腕時計。
といっても、いくつも持っているわけでなく、気に入ったモノを何年も使っちゃうんで、現存するのは3つくらい。

この腕時計って非常におもしろいものだと思う。

何がおもしろいかって、世の中でこんなに期待感が薄い必需品はないからだ。

100円のヤツから数億円のヤツまであるくせに、機能に革命的な差があるわけではない。
ただ時間を教えてくれる、だけ。

何百万円もするなら、ポーズをキメたら変身できそうな気もするが、できない。
何千万円もするなら、空を飛べそうな感じもするが、無理。

しかも、その教えるべく計ってくれてる時間がまた、正確ではない。
売ってる時からして、表示に「ズレまっせ」なる説明がある。
「この時計、ズレるで!」なんて怒ってる人は見たことがない。

しかし。
それで、いいのだ。
だいたいで、いいのだ。

では、なぜその始めから期待されていないモノに高価な値がつくのか。
そう、“おしゃれ”だ。
ブランドであったり、ついてる宝石であったり。

腕時計からしたら、わりと切ない話である。
新人若手女優に「キミ、ちょっとボーっとしてるけどかわいいからアシスタントやって。この宝石つきのドレス着て。大丈夫、立ってるだけで。べシャリに期待してないから」なぁんて気分。

「チキショ~、見てろ!」って出てきたのが、電波時計君。
一定の時間おきに、正確な時刻に合わせてくれるのだが、その努力も気づかれず、相変わらず一瞬適当に何時何分くらい的にしか見てもらえない。

最近は、腕時計してるのに携帯電話で時間を見る人も出てきて、存在すら危うい状態だ。

腕時計の心中を察するばかりである。

もし、これが僕だったらどうしようかと思う。
「キミ、作詞してるみたいだけど、めっちゃかっこええからモデルやって。書かんでええから」
考えると、どうしようと、頭を抱える。
困った。
悩む。

ものすごい余談だが、昔「5m防水」ってのは5m以上泳いだら壊れるのかと思っていた。